ヘンな生き物
フジテレビ
随筆のページへ

トップページへ

File No.150807

夏休み期間中は、あちこちで子供向けの展示会が行われている。九州大学(福岡市東区)の「きらめく甲虫展」では、金属光沢の甲虫約300種の標本を展示している。九州国立博物館(福岡県太宰府市)では「むしの考古学展」で、トンボの幼虫の化石などが展示されている。そんなことから1か月ほど前、フジテレビ系列で放映された「ヘンないきもの2015」という番組を思い出した。地球に生息する多くの生き物の中で、特に興味を引く生き方をしている動物などを、ランキング形式で紹介する番組である。タイトルに2015とあるが、去年も同じ形式で放映されていた。地球に生息する動物は数限りなくあるわけだが、この番組で紹介される動物たちの、生き抜く能力のすごさ、あるいは貴重な映像などが実に興味深かった。動物それぞれの形態は、生き延びるために獲得した合理的な形である。「種の保存」のために必死に適応していった動物たちに「ヘンな・・・」というのは失礼かもしれない。
番組を観ると、動物たちがそれぞれ置かれた環境で、どんな生き抜く力を身に付けたかがわかる。「種の保存」を考えると、必要な能力として、捕食する能力、防御する能力が基本となる。それを基盤にオスとしては、メスを獲得する求愛行動がある。捕食の能力では、「ヌリツヤマイマイ」は"かたつむり"だが、目にもとまらぬ早業で、一瞬のうちにミミズを呑み込む。去年の番組ではワニガメがミミズに見える舌を疑似餌に、これもカメとは思えない早業で小魚を捕食し30位にランクインしていた。防御の能力では、これも様々あるが、私が一押しなのは「擬態」である。今年23位の「マレーヒラタコケツユムシ」の擬態は、どこからどう見ても判別がつかない。これはすごい。おそらく細胞レベルで周りの状況を把握し対応している。45位の「ミイデラゴミムシ」は、約100度の高温のガスを体内で作り、敵目がけて噴射する。攻撃は最大の防御である。今年はランクインしていなかったが「フウチョウ」のユニークな求愛行動は実に面白い。
17位にランキングされた「アメリカアカガエル」の生き方はインパクトがある。カエルというのは、冬は落ち葉の下や土に中で冬眠する。ところがこのアメリカアカガエルは、地表で凍りついて越冬する。春になって氷がとけると活動を開始する。カエルは、少々の凍結には強いようなのだが、このアメリカアカガエルの凍りついた姿に感動する。この方法だと、敵から襲われないし、老化を遅らせるという。一石二鳥の生き方だが、生き延びる術として、彼らはこの過酷な道を選択したのだ。3位にランキングされた「コレマンアブラバチ」だが、アブラムシに卵を産みつける。すごいのはそのアブラムシが死なない程度の弱い毒を注入し、体内で孵化した幼虫は、そのアブラムシを養分として成長しサナギになる。卵から成虫まで約15日、成虫の寿命は6日だという。「この短いサイクルを永遠に繰り返す」というナレーションに、改めて動物たちの必死な営みに気づかされた。


地球に生命が誕生して40億年。この地球上に存在する生命のすべてが、最初に現れた単細胞生物を祖先としている。長い時間をかけ、環境に応じて、それぞれが生き方を選択し、生き延びてきた。細胞にとって生き延びることが最大の使命である。植物という生き方、動物という生き方、海の中で生き続けた動物、陸に上がって生き延びてきた動物たち。進化の過程で別々の道を歩き出した。25位の「ツメバケイ」のヒナの羽根には、始祖鳥と同じ爪がある。32位の「アカハネジネズミ」は、象の祖先だという。恐竜におびえていた小さなネズミが、我々ホモ・サピエンスの祖先である。霊長類が2足歩行のヒトになって700万年。現在の我々ホモ・サピエンスがアフリカで誕生したのは、わずか20万年前のことである。現人類は巨大な脳を獲得し、唯一「文化」なるものを手にした。我々は、文化の視点でものを見る。だから必死で生きている動物でも「ヘンないきもの」に見える。地球上で一番「ヘンないきもの」は人類かもしれない。


随筆のページへ トップページへ