SF小説「星を継ぐもの」 随筆のページへ

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File No.150730

子どものころ、ジュール・ベルヌのSF小説を夢中になって読んだものだ。SF小説の世界は、想像力を無限に広げてくれる。大人になってからのSFは、もっぱら映画で観ることになり、SF小説からは、久しく遠ざかっていた。6月から新聞で、大森望氏(書評家・翻訳家)が、「今夜読みたいSF」という連載随筆を執筆されている。この連載が始まるにあたって筆者はこう意気込みを語っていた。『いま、日本のSF小説は停滞を脱し、有望な新人が続々登場するなど、活況を呈しています。・・・こんなに面白いのに、読まないなんてもったいない!というわけで、往年の名作から最新の収穫まで、いますぐ読みたいSF小説の数々をご紹介します』。そんな言葉に触発されて、4回目に紹介されていた「星を継ぐもの」を買ってきた。これは日本で熱狂的な支持を集め、星雲賞海外長編部門を受賞したという。30年以上ずっと支持されてきたというから、どこか日本人の感性に合っているのだろう。そんな期待感をもって読み始めた。

月面で真紅の宇宙服をまとった人間の死体が発見された。チャーリーと名付けられたこの死体は、炭素年代測定の結果、死後5万年を経過していることが判明。正体を探るため、国連宇宙軍本部は原子物理学者・ヴィクター・ハントの参加を要請した。ハントはトライマグニスコープという、細胞の内部まで手に取るように観察できる装置を開発していた。スコープによる調査はもちろん、チャーリーが身につけ、所持していたものが、それぞれの分野の専門家によって分析された。出自不明のチャーリーの特徴は、細部に至るまで人間そのものだった。ルナリアンと呼ばれるようになったチャーリーの種族は、超小型精密機械など、高い技術をもっていた。ルナリアン進化の過程について、生物学者ダンチェッカーは、我々と同じ祖先から進化したと主張、ハント博士は、どこか別な場所で進化したと主張した。一方、木星の衛星ガニメデでは、国連宇宙軍太陽系探査計画木星衛星派遣隊が、氷の底深くに巨大な宇宙船らしきものを発見していた。


ガニメデ(木星の衛星)
このSF小説が発表されたのは、1977年のアメリカである。1970年代の宇宙開発はどんなものだったろうか。アポロ計画で、人類が月面に降り立ち、月面車が走り回った。スカイラブ計画によるアメリカ初の宇宙ステーションによる長期間の宇宙滞在。アメリカの火星探査機バイキングが火星に到着し、ボイジャーが木星や土星の写真を送ってきている。こうして見ると当時の宇宙観が、「星を継ぐもの」で繰り広げられる世界と妙に一致する。リアルな宇宙開発をベースに、近未来のストーリーが組み立てられている。一方、新しい「場の理論」が確立されなければならないとしながらも、ガニメアンの宇宙船の推力についての考察が実に面白い。『見上げるようなドーナツ状の装置・・・それによってつくりだされる重力ポテンシャルの大きな変動を何らかの形で制御して、宇宙船の周囲の空間を自由にゆがめて推力を得たのでしょう。言い換えると、宇宙船は自身が前方に作りだす穴に落ち込むことで前進する訳です。言うなれば四次元の無限軌道ですね』。

アンドロメダと銀河系が衝突するといっても、実感として下りてこない。しかしこの小説は、私たちがイメージできるスケールで展開している。全体としては、そんなところも、一気に読み終えた一因かもしれない。冒頭、5万年前、高い技術を持ったルナリアンが月で死んでいたところから始まる。「今夜読みたいSF」では、サブタイトルに"5万年のアリバイ崩し"と書かれている。SF小説と推理小説が絡み合い、読者はその世界に引き込まれていく。ルナリアンと地球の人間は身体的構造が全くおなじであるにも関わらず、ルナリアンの文明の痕跡が、地球上では一切発見されていない。それは5万年まえに、ルナリアンの母惑星と思われるミネルヴァが崩壊し、小惑星帯の一部になったことがその謎を解くカギになっている。その時に起きた重力の激変が、現在の地球の月を出現させ、ひいては地球に現人類を出現させる。その謎が壮大なスケールで解き明かされた時、「う〜ん、そうきたか」と、その心地よさに拍手を惜しまなかった。
小惑星帯

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月の裏側


7月20日に「コカ・コーラ」ボトル100周年を記念して、スリムボトルが発売された。
コカ・コーラ・ボトル独特の形は、100年ほぼ変わらず、コカ・コーラを象徴する形状として引き継がれている。この形の開発のコンセプトは、暗闇で触っただけでも分かる、砕け散ってもコカ・コーラと分かる形だという。
誕生から100年、そのデザインコンセプトを引き継ぎ、記念のボトルとして、250mlのスリムなアルミ缶が発売された。
ただ、その形は細長いため金属にかかる負荷が増し、ボトルの口や肩の形状を保ったままウェストを細く絞るため、特殊な加工が必要だったという。そんな難しい技術のため、スリムボトル専用の生産ラインが導入された。
そんな話を聞けば、実際に手にとって、その感触を感じてみたい。ということで発売日の翌日コンビニに行って買ってきた。