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File No.110811

8月3日からJR博多シティで「水戸岡鋭治の大鉄道時代展」が開催されている。水戸岡さんのイラストや実物模型などが展示されている。会場入り口のパネルには「・・・アイデアスケッチから筆を起こし、レタリングやイラストレーションへ、そして夢あふれるデザインへと立ち上げるプロセスをお見せします」と書いてある。水戸岡さんのデザインに対する考え方や25年間にわたる活動の歴史を知ることができる。これは願ってもない貴重な企画である。展示してある座席シートの中に、ASOBOYの親子シートもあった。テレビの密着取材で、このシートの開発プロセスを見たことがある。子供が必ず窓側に座れるように、背もたれを可動式にしたシートである。もちろん展示会の会場自体、デザインは水戸岡さん自身の手によるものである。それは、800系、787系、883系、885系などに見られるような上質なくつろぎの空間である。会場に入った人を、ふっと包み込むような快適さ感じさせてくれる。それは水戸岡さんのデザインの基本姿勢でもある。

世界の新幹線を総合的にみて、間違いなく日本の新幹線が最も優れている。その一つに運行の正確性が挙げられる。それは天変地異の影響も含めて、開業以来の平均遅延が18秒とも聞く。これは世界に類を見ない、驚異的なものである。それはすなわち、新幹線を動かす全てのセクションが、完璧に仕事をこなしているということでもある。新幹線をつくる技術は、ATC(自動列車制御装置)などをはじめとして、常に進歩している。しかし、それを動かしているのは人間である。ひとつのポジションがうまくいかなければ、システム全体が止まることにもなりかねない。なかでも運転技術はすごい。以前テレビの密着取材で見たことがあるが、新幹線の運転手のなかで、神がかった"すご技"の人がいた。その人は言ってみればアクセルの操作だけで、次の駅の到着時刻を調整していた。その日の天候、路線の勾配、カーブ全てを頭に入れ、常に頭の中で計算しながら、アクセルとエンジンブレーキを微妙に組み合わせながら運転する。その"すご技"を支えているのは「お客様に快適な旅を提供する」という基本姿勢である。

先月24日、中国浙江省で発生した、高速鉄道の追突・脱線事故は、世界に大きく報じられた。その事故に対する、中国政府の対処はおよそ信じがたいものだった。まずは何をおいても人命を尊重し、生存者の救出に全力を挙げるべきところ、生存者がいるにもかかわらず捜索を打ち切った。さらに事故原因を徹底的に追及すべきところ、最も重要な先頭車両は早々と砕いて埋めてしまった。何から何まで、ひとつとして納得のいくような対応はなかった。ただ、あの事故処理は、中国政府にとって特別ではなかったのかもしれない。今まで、そういうやり方がまかり通ってきたのである。ただ、今回は違った。映像が中国国内はもとより世界を駆け巡った。ネットによる世論の怒りを背景に、今まで政府の言いなりになっていたメディアも、弾圧に屈せず政府批判に流れが変わっていった。批判にさらされた中国政府は、致し方なく、真摯に対応する"ふり"を見せざるをえなくなった。今、中国政府は、後ろを向いて舌打ちをしているだろう。それが中国政府の基本姿勢である。

今日の新聞に「九州新幹線にブルネル賞」という記事があった。世界的な鉄道デザイン評価会「第11回ブルネル賞」で、「N700系7000/8000番代」が最高賞を受賞したという。受賞理由は「"凛"をテーマにした白藍色の外観や木材をふんだんに使用した和風の内装が高く評価されたとみられる」となっていた。今や日本は、「鉄道の旅を豊かにする」という高いレベルにある。ところが、何の技術的な裏付けもない、それを動かすハイレベルな人材の必要性も理解しない国が、パクったものに少し付け加えて、「これはわが国の技術です」と、海外で特許申請をするという暴挙に出ている。中国にはパクることに対する、罪悪感などかけらもない。いたるところに模倣品があふれている。この国は黒を白と言い切り、それをごり押してくる国だということは、誰もが分かっていたはずだ。責任の一端は、日本側にもあるだろう。何十年もかけて、積み重ねてきた貴重な技術を、日本国内だけの運用で満足してきた基本姿勢が問題である。


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水戸岡鋭治の
大鉄道時代展
駅弁から新幹線まで

2011/8/3〜8/24
JR九州ホール(JR博多シティ9F)

(←入場券の半券)